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【第16回】通信ネットワークをシミュレーションする
【第16回】通信ネットワークをシミュレーションする
コラムイメージ

シミュレーションは、様々な事象の動きを模擬し、観測・実験するために用いられる技術です。特に、規模の大きさや危険性等、現実に試すのが難しいことについて、確度の高い予想を得るために有効な手段となりえます。通信ネットワークでもシミュレーションが活用されています。特に、将来実現する技術を含む、大規模な通信ネットワークの性能や品質を評価するためには欠かせないものとなります。

通信ネットワークの良し悪し=品質

通信ネットワークは、情報の発信・着信を行う通信端末と、情報を伝達するための通信設備(中継装置、サーバやケーブル等)が互いに繋がれた、文字通り網目のような構造をしています。LANと呼ばれる小さなネットワークもあれば、いわゆるインターネットのような世界規模のネットワークもあります。通信ネットワークの価値は、「通信ができること」です。当たり前に思えるかもしれませんが、この「できる」には、

  • 互いがつながっていること
  • 情報が正しくやり取りできること
  • 互いの距離に関係なく、素早く(円滑に)コミュニケーションができること
  • いつでもコミュニケーションができること

など、様々な意味合いが含まれます。どの程度の通信ができるのか、を私たちは品質として認識します。いつでもつながり、正しく迅速なコミュニケーションができるのが良い通信ネットワークということになります。

シミュレーションを利用する理由

品質の良いネットワークを実現するためには、ただ装置を繋げていけば良いのではなく、

  • どのような性能や機能を持った装置を用意するか
  • 装置をどこに配置し、どのように接続するか
  • 情報が流れる経路についてのルールをどうするか

を考え、適切な組み合わせを実現する必要があります。この組み合わせを決めるために、シミュレーション技術が有効です。

通信ネットワークは一般に多数の装置が接続され、複雑な構成となっていますから、組合せを試すために実物を使うのは、費用/場所/時間の面で全く割に合いません(そもそも実物を用意する前に知りたい事柄なのですから!)。また、新しい技術や方式を考案し、その有効性を試すこともできません。

シミュレーションにより、知りたい事柄(遅延時間や通信の正確性等の品質や、方式の変更)に関わる要素以外を抽象化することで、本物の装置やデータを用意することなく簡便に評価が可能となります。

有線ネットワークのシミュレーション

通信ネットワークは、元々は有線が基本でした。有線ネットワークでは、いろいろな装置がケーブルで物理的に接続されています。ここでは、

  • 発信元から着信先まで、データはどのような規則でネットワークを流れていくか
  • 装置は、受けとったデータをどれだけの時間をかけ、どこに転送するか
  • 装置間の距離により、データがケーブル内を流れる時間はどれだけか
  • データの大きさがどれだけか

等をルールとして決めておけば、通信にかかる時間が評価できます。また、各装置においてエラーが発生する確率や、装置が故障する確率等を組み込むことで、データ転送の正確性や障害発生時の信頼性等も評価が可能となります。

無線ネットワークのシミュレーション

近年のパーソナルな通信の主役はスマートフォンであり、5G(第5世代移動通信システム)やWi-Fiなどの無線通信が欠かせません。また、人工衛星を利用した通信も利用頻度が高くなってきています。無線区間は文字通り線がありませんから、形としては目に見えにくいですが、大変重要なネットワークです。この無線ネットワークでは、

  • 一台の端末が、複数の基地局につながることができ、通信の経路が途中で変更する場合もある
  • 全ての通信が同じ媒体(=空気)を伝わるため、互いに干渉が生じる
  • ケーブルよりもはるかに速く信号が減衰するため、送信電力の制御が必要となる

など、有線のネットワークとは全く異なる課題があり、したがって、シミュレーションを実施する際に決めておくルールとして

  • 電波の干渉により信号がどれだけ減衰するか
  • 通信端末同士および基地局の位置関係、電波の干渉状況により、各端末がどこの基地局につなげるか、またどの程度の強さの信号を送出するか

等を追加する必要があります。ある端末が送るデータが他の通信のすべてに影響を及ぼすため、無線ネットワークのシミュレーション評価は有線ネットワークの場合よりもずっと複雑になります。

シミュレーションを利用する際の注意点

前にも述べた通り、シミュレーション技術は知りたい事柄以外を抽象化して計算を簡単にします。抽象化の程度が大きければ知ることのできる事柄は少なくなり、逆により具体化(詳細なモデル化)をすればより多くの事柄を知ることができるようになりますが設計や実行条件の設定が複雑化します。技術の進化により、コンピュータを用いてより高度なシミュレーションが便利に実行できるようになっていますし、AIの活用により複雑化に対応するのも一つの方向性ですが、知りたい事柄に合わせ具体化レベルを設計する工夫が大切です。例えば前節でも述べたように、無線信号による干渉は同一空間の全ての通信に影響しますが、一方でそれぞれの信号の強度は発信元からの距離の2乗に比例して減衰します。評価したい内容によっては、全ての信号の干渉を厳密に評価するか、ある程度の省略をするか等の判断をした方が良いでしょう。

おわりに

通信ネットワークは、現代人の生活に欠かせないインフラとなりましたが、方式や性能の面で常にアップデートを続けています。シミュレーションは、当たり前に使える、品質の良い通信を実現するため、一貫して通信ネットワークのアップデートを下支えする技術として活用されています。

執筆者

コラムニスト写真
NTTアドバンステクノロジ株式会社  
デジタルAI事業本部 アドバンスデータアナリシスビジネスユニット  
土屋 利明(つちや としあき)

略歴
NTT研究所にて通信ネットワークとその品質に関する評価・設計技術の検討に取り組む。現職では光ネットワーク実現に向けてレガシーネットワークの知見+データ分析+シミュレーションで奮闘中。   

AIデータ分析コラム

このコラムは、NTT-ATのデータサイエンティストが、独自の視点で、AIデータ分析の技術、市場、時事解説等を記事にしたものです。
月一回の更新で、次回は6月4日にお届けする予定です。障害対応の自律化に向けた取り組みについて掲載予定ですので、ご期待ください。


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