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コラム
AI Deep Dive【37】自治体で広がる生成AI活用 ~葛飾区「かつしかChat」と窓口対応AIエージェントの挑戦~
2026.03.03
生成AIの自治体利用が具体化する中、東京都葛飾区様では、区の計画書や各種マニュアルをベースにした「かつしかChat」を全庁展開し、職員の問い合わせ対応を支援しています。さらに窓口業務の会話を音声認識・要約し、適切なナレッジ参照を促す窓口対応AIエージェントの実証実験も進んでいます。
「かつしかChat」導入に至る背景
葛飾区様では、生成AIの活用をいち早く検討し、2023年夏頃から文章作成などの内部業務で試行してきましたが、汎用の生成AIだけでは「区の固有ルールを踏まえた回答になりにくい」「誤った回答が混ざる」といった課題が残り、利用範囲が限定される場面もありました。
そこで、区の基本計画・例規・各種マニュアル・区議会会議録など、区の実務に直結する文書群を「根拠データ」として整理し、生成AIが参照できる区独自のデータベースを構築しました。
葛飾区生成AIの取り組み概要
葛飾区様に業務ヒアリングを実施して、生成AIの利用で効果が見込めそうな用途に高精度の回答を素早く得る仕組みを構築し、精度向上のチューニングを実施して、庁内での運用を進めています。2024年6月に全庁展開を開始し、ナレッジ拡充のため同年11月からは出版社と連携した実証実験もスタートしました。
導入効果
「かつしかChat」は、回答とともに参照箇所(根拠)を示すことで、職員が短時間で確認ができる点が特徴です。これにより、マニュアルや会議録の「探す時間」を減らし、確認作業を残しつつも意思決定や住民対応に集中しやすくなります。
実際に、区議会会議録から特定テーマの答弁を抽出したり、区の政策・制度を踏まえた施策案づくりを支援したりと、「調査・企画」系の業務でも活用が進んでいます。
「かつしかChat」の仕組みと特徴
「かつしかChat」は、当社が展開するナレッジ活用特化型・生成AIソリューションの「RelAi ナレッジアシスタント」を活用して構築した必要な情報をナレッジから検索してAIで回答を生成するシステムです。葛飾区に関する文書をナレッジとして取り込み、問い合わせカテゴリーと用途を入力して検索を行い、回答生成に用いた参照箇所を併記することで、職員が回答の妥当性を短時間で確認できるようにして、AIの誤回答対策を行っています。
ネットワークは行政専用の安全なネットワークからクラウド基盤上のシステムへインターネットを通らない安全な通信を行い、職員端末から生成AI利用を可能にしています。
窓口対応AIエージェントの狙い
住民サービスの向上と窓口職員の負担軽減を目的に、窓口業務を支援するAIの試験導入を実施しています。高指向性小型マイクで会話を収音し、音声認識で文字起こしした後、生成AIで要約して必要事項を抽出します。「かつしかChat」に質問を送信して根拠付きの候補回答を提示し、職員が内容確認のうえ住民へ回答する運用を想定しています。
葛飾区の皆さまが直面した壁
現場での導入は、技術課題だけでなく「人と業務」に関わる調整が大きな比重を占めました。所管課との調整の難しさ(新しいツールへの慎重なご意見・懸念)、生成AIの特性や使い方を丁寧に説明して理解を広げていただく必要性、窓口という忙しい現場で検証に協力してもらう段取りの難しさなどがありました。
また、音声を扱う窓口支援では、相談者の声が小さい場合にマイクが認識できないなど、現場のフィードバックを受けて、感度調整や運用設計を繰り返すことが、重要になりました。
現場から見えた課題と今後の展望
課題として、精度と使い勝手のさらなる向上が挙げられます。固有名詞がヒットしづらいためナレッジ検索における全文検索との組み合わせや、出版社の有償コンテンツを利用するための課金や利用できる人を制限する仕組みが必要です。窓口では、プライベートな相談内容に配慮した収音、質問の趣旨が未整理なケースへの対応、複数質問の同時処理や言い回しの違いに左右されない回答が求められます。これらに対しては高指向性小型マイクの収音範囲の調整、職員側での発話整理、対話設計の改善(例えば質問を生成AIで要約して複数の質問観点を出し、職員にいずれかを選択してもらう)などを組み合わせて取り組む方針です。
おわりに
システムを現場に浸透させるには、利用者向け説明会や現場ヒアリングの実施、コンサルティングと運用サポートの並走が欠かせません。ナレッジの拡充と検索の工夫により、職員の不明点解消と稼働削減につながる「実務で使える生成AI」を着実に育てていきたいと考えています。
参考資料
・NTT東日本(報道発表, 2024/6/25)セキュアなネットワーク環境で構築 ~葛飾区の大量データと組み合わせた「生成AIシステム」~:https://www.ntt-east.co.jp/tokyo/info/detail/1287353_2608.html
・NTT-AT(ニュースリリース, 2025/4/24)生成AI活用で自治体の窓口対応業務を支援、AIエージェントシステムの試験運用を開始:https://www.ntt-at.co.jp/news/2025/detail/release250424.html
・NTT-AT(ニュースリリース, 2025/8/21)AIブランド「RelAi」の立上げおよび「RelAiナレッジアシスタント」の提供開始 ~安心と信頼のAIサービスを実現~ | NTT-AT
・葛飾区公式サイト(2025/9/19 更新)令和7年度第2回区長記者会見(生成AI窓口のデモ):https://www.city.katsushika.lg.jp/information/kucho/1030245/1028091/1038918/1039745.html
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このコラムは、NTT-ATのデータサイエンティストが、独自の視点で、AIデータ分析の技術、市場、時事解説等を記事にしたものです。
次回は2026年4月7日にお届けする予定です。「AIエージェントはなぜ魅力的か/なぜ失敗するか/どう成功させるか」について掲載予定です。
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