Column

コラム

OTセキュリティ事例に学ぶ中堅製造業で起きうるインシデントと工場停止リスク

2026.07.10

「OTセキュリティ事例に学ぶ中堅製造業で起きうるインシデントと工場停止リスク」のメインビジュアル

工場停止を招くOTセキュリティインシデントは、特別なサイバー攻撃だけで発生するものではありません。

自社の環境を十分に把握できていないまま運用を続けることで、トラブル発生時に原因を特定できず、復旧判断が長期化するケースもあります。

本記事では、製造業で起こり得るシナリオをもとに、工場停止のリスクとすぐに取り組めるOTセキュリティ対策の第一歩を解説します。

なぜ中堅製造業では対策が進まないのか

OTセキュリティの重要性は、多くの製造業で認識されるようになってきました。 取引先や関連会社から対策を求められるケースも増え、今後は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)※」など、自社の対策状況を説明できることが求められる動きも進んでいます

サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)・・・企業のサイバーセキュリティ対策状況を星(★)の数で見える化する新しい評価制度です。経済産業省(経産省)とIPA(情報処理推進機構)が中心となって策定を進めており、サプライチェーン全体のリスク低減を目的としています。

それにもかかわらず、実際には対策が進んでいないケースが多く見られます。 その理由は、決して「軽視しているから」ではありません。

むしろ、現場としては合理的な判断をしている結果として、後回しになっていることがほとんどです。


専任の担当がおらず、日常業務が優先される

多くの中堅製造業で、セキュリティ業務は設備管理やIT業務との兼務が一般的です。そのため目の前の生産やトラブル対応が優先され、セキュリティは後回しになりがちです

「止められない」という現場の前提

生産ラインを止めることは、収益に大きな影響を及ぼします。現場では、「今は止められない」という判断が優先され、対策が進みにくくなります。

問題が表面化しないまま運用が続いている

現時点で大きなトラブルが起きていない場合、「今は大丈夫」と判断されやすい傾向があります。その結果、リスク対応が先送りになることがあります。


こうした状況は、決して特別なものではありません。むしろ、多くの中堅製造業が同じ前提で運用しています。ただし「問題が起きていない」=「ノーリスク」ではありません

あなたの工場は大丈夫?OTセキュリティリスクをチェック

対策が進まない企業が少なくない中、実際に自社の状況はどうでしょうか。 まずは、現在の状態に当てはまるものがないか確認してみてください。

1つでも当てはまる場合、すでに“見えないリスクを抱えた状態”で運用している可能性があります。

□工場内でどの機器がネットワークに接続されているのか、正確に把握できていない
□導入時期の古い設備やOSがそのまま稼働している
□外部ベンダーやリモート接続の管理ルールが曖昧になっている
□ネットワーク内でどのような通信が行われているかを常時確認できていない
□セキュリティインシデントが発生した場合の対応手順が明確になっていない

工場内の現状が把握できていないイメージ

OTセキュリティ事例に学ぶ、工場が停止するインシデントシナリオ

前のチェック項目に当てはまる状態でも、普段は大きな問題なく運用できているケースがほとんどです。

しかしOT環境では、そのまま何も問題が起きていない状態が続いた後、あるタイミングで一気にトラブルとして顕在化するケースがあります。

つまり、「今動いているから大丈夫」という状況下で、問題が見えないまま蓄積し、リスクになり得るということです。

ここでは、実際の中堅製造業でも起こり得る「工場が止まるシナリオ」を具体的に見ていきます

工場が停止し対応に追われるイメージ

USB経由のマルウェア感染で制御端末が停止|工場ラインが止まる事例

保守用に使っていたUSBメモリ経由で、制御端末がマルウェアに感染。

当初は目立った異常はありませんが、ある朝、突然ラインが停止します。操作を受け付けず、再起動しても復旧しません。設備異常なのか、ソフトの問題なのか判断できず、生産は停止したまま。 原因が特定できないため、「再起動していいのか」の判断すらできず、停止が長引いてしまいます。

未管理端末からの侵入でネットワーク内部に拡散|気づけない感染の事例

過去に一時的に接続されたPCが、ネットワーク上に残ったままになっていたケース。

その端末が外部から侵入を受け、工場ネットワーク内部へアクセスされます。しかし、その存在自体を把握できていないため、侵入に気づくことができません。結果として複数の設備に影響が広がり、異常が発生。問題が発覚した時点では、すでに影響範囲が特定できない状態になっています。

リモート接続の管理不備が原因|外部アクセスからトラブルに発展する事例

リモート保守のために開放していた接続経路が起点となるケースです。

共通アカウントの使い回しや、アクセス管理が曖昧な状態のまま運用されていると、誰がどのタイミングでアクセスしたのかを把握できません。 問題が発生しても、「外部要因なのか内部なのか」切り分けできず、復旧判断が止まってしまう要因になります。

異常通信の見逃しによる被害拡大|検知できず影響が広がる事例

ネットワークの通信状況を把握していない場合、異常が発生しても気づくことができません。

例えば、普段とは異なる通信が継続して発生していても、それを検知する手段がなければ、そのまま放置されてしまいます。 そして、設備に明確な異常が出た時点で初めて問題に気づく頃には、すでに影響が広がっているケースも少なくありません。

なぜ工場は止まるのか?OTセキュリティインシデントで復旧が長引く理由

前章のように、OTセキュリティインシデントは、特別なサイバー攻撃がきっかけではなくても起きる可能性があり、中堅製造業では工場が一度止まると、そこからの復旧に想定以上の時間がかかるケースがあります。

その背景には、「技術的な難しさ」だけではなく、現場特有の状況があります。

工場停止につながるセキュリティインシデントの進行イメージ
<工場停止につながるセキュリティインシデントの進行イメージ>

原因が特定できず復旧方針が決められない

トラブル発生時にまず問題になるのが、何が原因なのか分からないことです

設備の故障なのか、ネットワークの問題なのか、セキュリティインシデントなのか、この切り分けができないままでは、次に何をすべきか判断できません。 ログも十分に取れておらず、通信状況も見えていない場合、現場では「一つずつ試すしかない」状態になります。

その結果、再起動する・設定を戻す・機器を切り離す、といった対応を繰り返しますが、確証が持てないため判断が遅れ、ラインは止まったまま時間だけが過ぎていきます。

安全性の判断ができずライン再開が遅れる

原因が特定できない状態では、たとえ一時的に復旧したとしても、そのままラインを再開してよいのか判断できません。

同じ問題が再発しないか、別の設備に影響が出ないか、安全上の問題はないか、こうした懸念が残る中で現場だけで再開を判断するのは難しく、結果として「止めたまま待つ」という選択になりがちです。

これは中堅製造業にとって最も避けたい状況ですが、情報が不足している状態では、合理的な判断でもあります。

現場・IT・ベンダー間で判断が止まる

復旧をさらに長引かせるのが、関係者間での判断の停滞です。 現場は「早く再開したい」、ITは「リスクが残っているなら止めるべき」、ベンダーは「状況を確認しないと判断できない」 それぞれが正しい前提で動いているにもかかわらず、結論が出ないまま時間が過ぎていく状況になります。

さらに、誰に連絡すべきか分からない、複数ベンダーが関与している、すぐに対応できない、といった要因が重なることで復旧作業そのものが進まない状態に陥ることもあります。

従来のトラブル対応では対処できない

日常的な設備トラブルであれば、現場の経験で対応できるケースも多くあります。

しかしOTセキュリティに起因する問題は、

  • 原因が一つではない
  • 影響範囲が見えない
  • 再発リスクを考慮する必要がある

といった特徴があり、これまでの対応方法では判断できない場面が増えます。 その結果、「これまでならすぐ戻せたはずのトラブルでも、今回は戻せない」という状況が発生します。

共通する原因は「見えていないこと」OTセキュリティ対策の前提とは

ここまで見てきたシナリオや復旧の遅れには、いくつかの共通点があります。

  • どの機器がネットワークに接続されているかわからない
  • どのような通信が行われているか見えていない
  • どこから影響が広がっているのか判断できない

こうした状態では、問題が発生しても原因を特定できず、正しい判断ができないまま時間が経過してしまいます。

その結果、本来であれば短時間で対応できた可能性のあるトラブルでも、「止まったまま戻せない状態」に陥ってしまうのです。

つまり、OTセキュリティの多くの課題は「高度な対策ができていないこと」ではなく、“現状を把握できていないこと”から始まっています。

こうした現状の把握は、単にインシデントから工場を守るためだけではなく、自社のセキュリティ対策状況を説明するための前提にもなります。

2026年内に開始されるSCS評価制度は、サプライチェーンの各企業間で必要なセキュリティ対策ができているか“見えるようにする仕組み”であり、「どのような対策を講じているのかを外部に説明できること」が求められます。

対策状況を説明するためには、そもそも「自社の環境や資産がどうなっているのか」を把握できていなければ成り立ちません。 そのためにも、まずは“現状を見える状態に近づける”ことが重要になります。 これはIT・OTの違いにかかわらず、共通して求められつつある視点です。

すぐに取り組むことができるOTセキュリティ対策

見える化によって把握・運用しやすくなったOT環境のイメージ
<見える化によって把握・運用しやすくなったOT環境のイメージ>

ここでは、現場ですぐに取り組むことができる“可視化に向けた最小対策”を紹介します。

1.接続機器(OT資産)を把握する|まずは見える範囲から整理

まずは「どの機器がネットワークにつながっているのか」を整理します。 ただし、最初から完璧に洗い出す必要はありません。「主要な設備だけ」「分かる範囲だけ」でも十分です。

例えば、

  • PLCやHMIなどの制御機器
  • 現場にあるPCやサーバ
  • 外部と接続している機器

といった項目を、紙やExcelで簡単に書き出すだけでも、「どこに何があるのか」が見え始めます。

2.外部接続(リモートアクセス)を整理する|入口リスクを明確化

次に確認したいのが、工場がどこから外部とつながっているかです。 特に、リモート保守やベンダー接続は、知らないうちに増えているケースも少なくありません。

例えば、

  • どの経路で外部からアクセスできるのか
  • 誰がその接続を使っているのか
  • 共用アカウントが残っていないか

こうした点を整理するだけでも、リスクの入り口がどこにあるかが見えてきます。

3.異常通信に気づける状態をつくる|簡易的な監視から始める

すべての通信を詳細に分析するのは簡単ではありません。 しかし、「いつもと違う状態に気づけるかどうか」は大きな差になります。

例えば、

  • 普段は通信しない機器同士が接続している
  • 急に通信量が増えている

といった変化に気づけるだけでも、異常の早期発見につながります。

4.インシデント発生時の初動対応を決めておく

もう一つ重要なのが、「何か起きたときに誰がどう動くか」を決めておくことです。

  • 誰に連絡するのか
  • 生産を止める判断は誰がするのか
  • IT部門とどう連携するのか

こうした最低限の取り決めがあるだけでも、実際のトラブル時の混乱を大きく減らすことができます。

最小対策のポイントは、「見える状態」を段階的に作ることが重要

ここで紹介した対策は、どれも特別なものではありません。 重要なのは、「全部を完璧にやること」ではなく、「今できる範囲から着手すること」です。

まずは、

  • どこに何があるのか少し分かる
  • どこからつながっているか把握できる

といった状態になるだけでも、判断できることは大きく増えます。

工場停止を防ぐ第一歩は、自社のリスク把握

前の章で紹介した最小対策は、現場でも取り組みやすく、「何も見えていない状態」から一歩進むための有効な方法です。

一方で、ある程度状況が見えてくると、

  • 把握できているのは一部の設備だけで、全体像がつかめない
  • この状態がどれくらい危険なのか判断できない
  • どこから手をつけるべきか優先順位が分からない

その結果、「ある程度見えてきたが、どう判断すればよいのか分からない」という“壁”に直面し、対策が止まってしまうケースも少なくありません。

まずは自社のリスクレベルを確認する

OTセキュリティ対策をもう一段階、前に進めるためには、自社の対策状況やリスクの現状を“全体として把握し、優先順位をつけられる状態にすること”です。

  • どこにリスクがあるのか
  • どの程度影響が出る可能性があるのか
  • どこから対応すべきか

これらを整理できると、実行可能な対策に進むことができます。

NTT-ATでは、工場のOTセキュリティ状況をチェックできる「OTセキュリティクイック診断」を提供しています。無料・5分で診断ができ、診断後、ご希望の方は約60分の無料アフターフォローも提供しています。この機会に自社が「どの状態にあるのか」をお気軽にお試しください。

OTセキュリティ関連ページ・おすすめ記事

◆リスクや課題は把握したが、どこから対策すべきか優先順位にお困りの方へ

自社の現状を把握した後は何から対応すべきか優先順位を設定することで効果的にOTセキュリティ対策を進めることができます。
NTT-ATの「OTセキュリティアセスメント」では、セキュリティの専門家がリスクの大きさや影響、対策の優先順位を整理し提案します。

「OTセキュリティアセスメント」サービス紹介ページへの遷移ボタン

お問い合わせ

あなたの工場の「止まるリスク」、見えていますか?

執筆者

中山真(なかやま しん)

NTTアドバンステクノロジ株式会社
ソーシャルプラットフォーム・ビジネス本部 セキュリティビジネス部門

SOCアナリストとしてセキュリティ運用業務を経て、現在はOTセキュリティサービスに関連する業務に携わっている。製造業におけるサイバーセキュリティ対策の推進に携わるほか、生成AIとOTセキュリティを組み合わせた新たなサービス・ビジネスの創出に取り組んでいる。

当サイトでは、お客さまに最適なユーザー体験をご提供するためにCookieを使用しています。当サイトをご利用いただくことにより、お客さまがCookieの使用に同意されたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。