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【第20回】量子コンピュータとデータサイエンス
【第20回】量子コンピュータとデータサイエンス
コラムイメージ

データの利用量や処理量が増大している現代において、量子コンピュータは次世代の高速コンピュータとして注目されています。
本稿では、量子コンピュータがどのようなものであるかと活用事例を説明していきます。

量子コンピュータとは

量子力学のルールに沿って設計されたコンピュータを量子コンピュータと呼びます。

量子コンピュータは以下の2つの量子力学における特性を活かして、高速な計算を行うことを目指しています。
量子コンピュータは、現代のコンピュータで原理的に解けない問題を解くことはできません。
「組み合わせ最適化問題」のような問題の規模が大きくなったときに計算時間が爆発的に増える「解くのが難しい問題」の一部において、より速く解くことができます。

  1. ナノサイズ以下の世界で顕著になる物質の波動性を用い、様々な計算過程を重ね合わせられる特性
  2. 測定結果が確率的に得られる特性

量子コンピュータは量子論理演算を使って、「重ね合わせ具合」を表すたくさんの波を入れ替えたり、タイミングをずらしたり、干渉させたりして答えを導き出す「波を使った計算装置」です。
「重ね合わせ」とは、量子ビットが同時に複数の状態に存在できる能力で、0と1の中間状態を含む複数の状態を同時に持つことができます。
「干渉」とは、0と1の波をそれぞれ足したり引いたりすることで新しい波のペアを合成する演算のことです。

量子コンピュータの開発は、1980年代からハードウェア不在の状態で初期のアルゴリズムの研究開発が続いていました。2000年代に入ると、実験室の中で徐々に実現可能なハードウェアとして研究開発がなされ、現在では複数のハードウェアメーカーが量子コンピュータの商用マシンの本格稼働に向けて開発を行っています。

量子コンピュータによる計算の高速化

計算の所要時間は、「計算1回の時間」×「計算回数」とすることができます。
量子コンピュータによる計算の高速化とは、問題を解く際にこの「計算回数」の部分を減らすことを指します。
問題によっては計算回数が減ったものの計算1回にかかる時間が長く、現代のコンピュータの計算時間の方が短くなる場合もあります。
問題規模が大きくなるほど計算回数が増えるような問題において、量子コンピュータによる計算の高速化の恩恵を得ることができます。
そのため、何においても量子コンピュータで高速化できるというわけではなく、有効に利用できる問題かどうかを考えて使う必要があります。

量子コンピュータが得意な問題と活用分野

量子コンピュータが得意な問題とそれがどのような分野で活用できるかの例を4つ紹介します。

1. グローバーの解法

「グローバーの解法」とは、複数ある候補の中から、ある条件を満たすものだけを効率よく探し出すという量子コンピュータを使うと高速化できる計算方法です。
問題の具体例としては、「ランダムな順で並んでいるデータのリストの中から特定の人物のデータを探したい」といったときに効率的に行うことができます。
量子コンピュータは、答えの候補を重ね合わせて同時に調べつつ、干渉によって正しい答えを絞り込むことで計算回数を減らします。

以下は答えの絞り込みの例になります。

3つのビットで表される「000」~「111」の8パターンの暗証番号のうち「101」を正解とします。
8パターンの波を全て同じ大きさ同じ振動のタイミングで重ね合わせて、量子版問い合わせマシンに入力すると、正解の「101」の波だけ山と谷を逆にして出力します。
その後8パターンの波を上手く干渉させることで当たりの波は強め合って大きくし、他の波は弱めあって小さくなります。
この手順を繰り返すことで最終的に「101」の波だけが残るようになります。

この方法は、データベース検索や組み合わせ最適化問題において活用することが可能です。

2. ミクロな化学の計算

物質の中の電子の振る舞いを正確に計算することをミクロな化学の計算と呼びます。
物質の持つ性質の多くは、物質中の電子が決めています。
そのため物質中の電子の振る舞いがわかるとその物質の色や形、化学反応の起こり方まで予想することが可能になります。
電子は量子力学のルールに沿って軌道に入るため、同じ量子力学のルールに沿って設計された量子コンピュータを使うと簡単に計算できます。
機能性材料や薬の開発のような化学の計算が使われる分野で活用することが可能です。

3. ショアの解法

「ショアの解法」とは素因数分解を高速に行う解法です。
素因数分解は数字の桁数が増えると劇的に難化します。
数字の列の情報を量子ビットの重ね合わせの情報の中にうまく埋め込み、それらをうまく干渉させることで周期に関する情報を浮かび上がらせ、周期を高速に見つける方法を「量子フーリエ変換」と呼びます。
量子コンピュータではこの方法を用いて計算の高速化を行っています。
この方法は、暗号解読のような分野で活用することが可能です。

4. 連立一次方程式の解法

連立一次方程式は、文字が増えていくと計算量が増え難しい問題となります。
量子コンピュータでは、それぞれの数を波に置きかえて考えることで、数の足し引きを波の足し引きとしてとらえて、計算することで高速化します。
この方法は、シミュレーション、制御、機械学習、データ分析、画像処理など多くの分野で活用することが可能です。
実際にデータ分析において機械学習を行う際に学習完了までに2,3日かかるようなことがありました。
連立一次方程式の解法を量子コンピュータで行うことで学習にかかる時間を短縮できて、学習結果からデータ分析にかける時間を多く確保できます。
このような形で業務に落とし込めるようになることが期待されます。
ただし、これらの計算で実用上役に立つ問題を解くには100万から1億個以上の量子ビットを高い精度で操作する必要があり、現代の量子コンピュータでは足りず、エラーも多い現状です。
そのため、現在少ない量子ビットで効率的に計算を行う方法がないか研究されています。
小さい量子コンピュータと通常のコンピュータを役割分担して組み合わせることで、最適化問題を解かせるような計算手法が提案されています。

終わりに

本稿では、量子コンピュータがどのようなものであるかと活用事例について説明を行いました。
量子コンピュータは、データサイエンスの分野に活用できることはわかっていますが、まだまだこれからの分野です。今後も量子コンピュータの動向については引き続き注目していきたいと思います。

 

参考文献
[1] 武田俊太郎, “量子コンピュータが本当にわかる!―第一線開発者がやさしく明かすしくみと可能性” , 2020年3月3日.
[2] 湊雄一郎,比嘉恵一郎,永井隆太郎,加藤拓己 “IBM Quantumで学ぶ量子コンピュータ” , 2021年3月10日.

執筆者

コラムニスト写真

NTTアドバンステクノロジ株式会社 
アプリケーション・ビジネス本部 DXビジネス部門
時田 翔生(ときた しょうき)


略歴
機械学習や統計処理を用いて業務効率化に向けた各種データの分析作業を担当。

AIデータ分析コラム

このコラムは、NTT-ATのデータサイエンティストが、独自の視点で、AIデータ分析の技術、市場、時事解説等を記事にしたものです。

 

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