世界初、硬性内視鏡で生体組織の3次元イメージングに成功 ―KTN結晶を用いた光スキャナーにより実現―
2017年04月14日

世界初、硬性内視鏡で生体組織の3次元イメージングに成功
 ―KTN結晶を用いた光スキャナーにより実現―

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
国立大学法人大阪大学

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(神奈川県川崎市、理事長:古川一夫、以下NEDO)は、NTTアドバンステクノロジ株式会社(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:木村丈治、以下NTT-AT)、国立大学法人 大阪大学(大阪府吹田市、総長:西尾章治郎、以下大阪大学)とともに、小型、高速、低消費電力で駆動するKTN光スキャナーを用いた硬性内視鏡を開発しました。これにより世界で初めて硬性内視鏡による生体組織の3次元イメージングに成功しました。この技術を用いることにより低侵襲な診断・治療が可能になります。
今後、NTT-ATは整形外科をはじめとする幅広い医療分野に対し、診断・治療用デバイスとして医療機器メーカーへの提供を目指していきます。

KTN光スキャナーを組み込んだ硬性内視鏡
図1.KTN光スキャナーを組み込んだ硬性内視鏡
取得に成功したヒトの指表面組織の3次元イメージ
図2.取得に成功したヒトの指表面組織の3次元イメージ

1.概要

KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)※1結晶は、電圧で屈折率が変わる特殊な電気光学効果※2を持つ材料で、その効果は既存材料の中で最大です。この効果により光の偏向(スキャン)を従来材料の1/100の電圧で実現でき、これを、レーザー光を偏向するデバイス(光スキャナー)に用いることで、従来の光スキャナーに比べ、大幅に高速・小型・低消費電力で駆動させることが可能となります。

NEDOは、「クリーンデバイス社会実装推進事業」において、NTT-ATと大阪大学とともに、NTT-ATの持つ2次元光スキャナー(2台のKTN光スキャナーで構成)に新たに設計したレンズを取付けた硬性内視鏡※3を開発しました。そして、この硬性内視鏡を光干渉断層計(Optical Coherence Tomography:OCT)※4と組み合わせて用いることで、世界で初めて硬性内視鏡による生体組織の3次元イメージングに成功しました。これにより、体の表面に小さな穴を開けるだけで、組織をリアルタイムにイメージングすることが可能になり、低侵襲な診断・治療が実現できます。

国内の内視鏡手術は既に17万件を超えています。今回開発した3次元イメージングが可能な硬性内視鏡は、従来の内視鏡手術やロボット手術にも展開が可能であり、幅広い医療分野での使用が期待されます。今後、NTT-ATは整形外科をはじめとする内視鏡手術に係る幅広い医療分野への展開を目指し、診断・治療用デバイスとして医療機器メーカーへの提供を進めます。

なお、本成果は、2017年4月19日(水)~21日(金)の間、パシフィコ横浜で開催される「レーザーEXPO 2017」のNTT-ATブースにて展示します。

2.今回の成果

開発した硬性内視鏡は、患部表面を面的に捉えるKTN光スキャナーと、患部の深さ方向の生体組織を高精細に観察できるOCTを組み合わせることで、3次元イメージの取得を可能にしています(図3)。硬性内視鏡の先端部にはレーザー光を体内に届けるための直径7mm、長さ53mmのレンズが装着されます。このレンズを体の表面に開けた小さい穴から体内に挿入して患部のイメージングを行います。今回は、実際に体内に挿入はせずに、ヒトの指の表面から3次元イメージを取得し、汗腺、真皮等の複雑な内部構造を十分イメージングできたことから、実用レベルの分解能が得られていることを確認しました(図2)。

今回実現した硬性内視鏡は、KTN光スキャナーが持つ以下の【1】~【3】の特徴を最大限に活用した成果です。

図3.開発した光干渉断層計(OCT)の外観
図3.開発した光干渉断層計(OCT)の外観

【1】小型かつ透過型のKTN光スキャナー

今回開発した硬性内視鏡は、KTN光スキャナー(図4)2台で構成されています(図5)。患部の表面を面的にスキャンするには、KTN光スキャナー2台の光学的な組み合わせが必要です。従来の一般的な光スキャナーがポリゴンミラー※5やMEMS※6のように鏡でレーザー光を反射させる反射型であるのに対し、KTN光スキャナーは図4のように透過型であり、レーザー光を折り返すなどの複雑な構成が必要ありません。このため、レーザー光の光軸に沿って少数の光学部品を直線的に配置することで低損失化を実現し、患部からの微弱な戻り光を損失無くOCTで検出し、高品質なイメージングが可能です。このシンプルな光学系により16mm角×183mm長、重さ60gという長時間の利用に耐えられる小型で軽量な硬性内視鏡を実現できました。

KTN光スキャナーの動作イメージ
図4.KTN光スキャナーの動作イメージ
硬性内視鏡の構成図
図5.硬性内視鏡の構成図 

【2】可動部分が無い安定な動作

KTN光スキャナーは、電圧によって結晶内部の屈折率分布を制御する新しい光スキャナーであり、ポリゴンミラーやMEMSのように機械的な可動部分が無い構造です。このため、長期信頼性に優れ、長時間の使用においても安定に駆動します。さらに本体が振動しないため、手術時の精密な操作が可能であり、安定したイメージングを実現します。

【3】電気光学効果による低消費電力動作

KTN光スキャナーは電気光学効果によって動作し、KTN光スキャナーを構成する結晶それ自体が誘電体であるため、結晶内部に電流は流れません。このため、現在最も普及しているポリゴンミラーや従来のOCTに用いられているガルバノスキャナーに比べ1/1000の省電力化が可能です。

3.今後の予定

今後は、動物実験や臨床試験を実施し、医療機器としての実用性を検証していきます。さらに、内視鏡手術に係る幅広い医療分野への展開を目指し、診断機器としての利用に加えレーザー光を有効活用した治療装置への展開を進めます。
 

用語解説
※1 KTN
(タンタル酸ニオブ酸カリウム)
KTa1-xNbxO3の組成を持つ光学結晶です。広い波長範囲で透明で大きな電気光学効果を持つのが特徴です。
※2 電気光学効果 電圧をかけることにより、屈折率が変化する現象です。屈折率が電圧に比例するポッケルス効果と、電圧の2乗に比例するカー効果があり、KTNはカー効果を示します。
※3 硬性内視鏡 内視鏡手術に用いられる機器のひとつであり、ビデオスコープと呼ばれています。直径10mm程度の金属性の筒の先端にCCDカメラとライトガイドが内蔵されており、ライトガイドで患部を照らしつつCCDで観察します。手術の際には、患部に小さな穴をあけ、この金属製の筒を体内に挿入し、患部のイメージを観察しながら手術を行います。
※4 光干渉断層計
(OCT)
光の干渉性を用いて深さ方向の構造を高分解能・高速に観察する技術です。レーザー光を用い、非接触・非侵襲で画像を得ることができ、被爆の心配のない断層撮影技術です。近年、眼科、循環器内科を中心に、医療現場で広く用いられるようになりました。
※5 ポリゴンミラー 回転多面体のミラー。1分間に数万回という速度で回転し、レーザー光を一方向に高速にスキャンすることができます。レーザープリンター等、幅広く利用されています。
※6 MEMS Micro Electro Mechanical Systemsの略称で機械要素部品、センサー、アクチュエーター電子回路を基板上に集積化したデバイスです。ミラーを集積し、2次元の光スキャンを実現するものは、プロジェクター等に広く利用されています。

4.問い合わせ先

本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先

NEDO 

IoT推進部 
担当:栗原、岸田 
TEL:044-520-5211

NTTアドバンステクノロジ株式会社 

グローバル事業本部
担当:藤浦、小松 
TEL:046-250-3774

国立大学法人大阪大学

大学院医学系研究科 
担当:近江 
TEL:06-6879-2560

その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先

NEDO 

広報部 
担当:藤本、髙津佐、坂本
TEL:044-520-5151 
E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

 


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グローバル事業本部

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