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コラム
AI Deep Dive【33】BIツールと生成AI
2025.11.04
BI(Business Intelligence)ツールは、「データの集計・解析・見える化を容易にし、その分析結果をビジネスの意思決定に役立てるためのツール」であることをこのコラムの28回でご紹介しました。
そんなBIツールと、目覚ましい進化を続ける生成AIとの融合には、大きなメリットが期待できます。
一方で、正確性が求められるデータ分析において生成AIのブラックボックス性がどう影響するか、またデータ漏洩などのセキュリティ面の心配など、懸念事項もあります。
本コラムでは、BIツールと生成AIをかけあわせる際のメリット、デメリットをテーマとしています。
「BIツール×AI」の進化
私が初めてBIツールに触れたのは弊社で取り扱っているSpotfireで、今から10年近く前のことです。現在はVer.14ですが、当時はまだVer.6でした。バージョンアップを重ねるごとに、機能は格段に進化し、使いやすさも大きく向上しました。
たとえば加工・成型したデータがダッシュボードの内部で使いまわせるようになったり、ファイルエクスポート形式がCSVだけでなくExcelにも対応したりと、地味なものもありますが、業務効率に直結する改善が多数ありました。BIツールは、間違いなく日々の分析業務を支えてくれています。
そして最近では、Spotfireにも「Spotfire Copilot」という生成AIと連携した機能が登場しました。
ツール画面にはプロンプト画面が用意され、自然言語で対話しながらツールを操作できます。分析や使い方のサポートを受けたり、グラフの生成からお任せしたり、データ整形も可能です。かつてはツールのHELPやWeb検索を駆使して必死に情報を集め、苦労しながら作っていたあれこれが、今ではAIに聞けば一瞬で答えが返ってくる──そんな時代になりました。
現在、生成AIを搭載したBIツールは、他にも数多く登場しています。Power BI(Microsoft)、Tableau(Salesforce)、Amazon QuickSight、等々、自然言語による分析やインサイト抽出や予測分析など、ツールによって差はありますが、色々な機能を備えています。AIアシスタントの力により、可視化や分析のハードルは大きく下がり、より直感的なデータ活用が可能になっています。
「BIツール×AI」の課題
とはいえ、生成AIには避けて通れない課題があります。最大の懸念は、生成AIは「うそをつく」こと。対話形式であっという間にデータを整形・可視化してくれるのは魅力的ですが、その結果が正しいかどうか即時に判断できる材料がない場合、結局は出力結果や算出過程を人が確認する、という手間が発生します。他にも挙げられる生成AIの懸念点は、「要望が多いと取りこぼす」ところ。チャットでもAPIでもそうですが、生成AIにプロンプトで指示を出す場合、伝える要望が多すぎると、たいてい何かしら漏れが生じます。これはデータ分析という精度が求められる作業において、見過ごせないデメリットです。
弊社では、経営の収支情報や社員の時間外勤務取得状況、年休取得数などの社内データをSpotfireで加工・可視化し、「見える化サービス」として社内に展開しています。担当者が毎月最新のデータをツールに読み込ませれば、Webブラウザ経由で最新情報を表示でき、経営層を含む関係者が自由に閲覧・確認することが可能です。フィルターやドリルダウン機能を使った分析も行えます。また、部署や役職に応じた公開範囲の制限も、社員情報リストをもとに自動で制御されています。
ですが、このダッシュボードでは非常に多くの種類のデータを扱っています。特に経営データについては、弊社の会計基準に基づいて作り込まれているため、内部では複雑な計算処理を行っています。複数のデータを結合し、項目ごとに異なる計算ロジックを適用するなど、細かく複雑な処理が必要です。このようなダッシュボードを、現在の生成AIが一瞬で再現できるとは、正直まだ思えません。全く同じ仕様を満たすものを作るには、長い長いプロンプトによる対話が必要になるでしょう。
AIは“それっぽい”回答を返すことが得意ですが、“正確さ”が求められる場面では、まだ人間の目による検証が不可欠です。
「BIツール×AI」の活用
「複雑な計算処理や機能を組み込んだダッシュボードを、一瞬で仕様漏れなく構築してくれる」AIを搭載したBIツールの登場はまだまだ難しそうです。(ただしAIの進化は早いので、来年くらいには出来上がっているかもしれませんが…。)
ですが、初心者がBIツールを覚える段階では、生成AIはものすごく頼りがいのあるパートナーになります。
例えば「売上推移のグラフを作りたい」と思ったとき、どのデータを使えばいいのか、どんな可視化が適しているのか、そもそもどこをクリックすればいいのか──そんな疑問に、生成AIは対話形式で丁寧に答えてくれます。「この列を使って棒グラフを作って」「月別に集計したい」「前年比も出したい」といった要望を自然言語で伝えるだけで、ある程度の可視化まで導いてくれるのは、初心者にとってはまさに“先生”のような存在です。かつては、ツールの操作方法を理解するためにマニュアルを読み込んだり、検索しながら試行錯誤を重ねる必要がありました。しかし今では、AIとの対話によってスムーズに進められるようになり、導入のハードルが大きく下がっています。BIツールを使い始める際の「最初の一歩」を支える存在として、生成AIは非常に頼もしい味方です。そして、「製造者」ではなく「教師」としてAIを使うぶんには、「うそをつく」という問題のデメリットはかなり減ります。その答えが正しいかどうかは、人がその結果を試すことですぐに検証できます。学習支援や初期の情報収集において、生成AIはこれ以上ないパートナーだと感じています。
そんな“教師役”として生成AIを使用した経験談をひとつご紹介します。
先日、「文字列の中で特定のワードが何回出てくるかカウントしたい」ということがありました。Find関数では”何文字目に出てくるか”しかわからないし、Spotfireにそんな関数あったかしら……と考えながら、生成AIに聞いてみたところ、こんな回答が返ってきました。
・Spotfireには、文字列の中に特定のワードが出てくる回数を調べる関数は存在しますよ!
・例えば「東京」というワードを探したいなら、こんな風にできます
(Length([テキスト列]) - Length(Replace([テキスト列], "東京", ""))) / Length("東京")
・コミュニティサイトなどでもこの方法が紹介されています。リンクが知りたいですか?
……早速、少しの嘘が入っています。確かに私の要望は解決できていますが、「目的を満たす関数」が存在するのではなく、「複数の関数を組み合わせれば目的を果たせる」という回答なので、微妙に違います。 (もしかしたらこれも嘘で、実はぴったりの関数が存在している可能性も…?)
とはいえ、これを自分で実現しようと思ったら
1.Spotfireの関数一覧でテキスト関数を探す → 見つからない
2.どうすれば実現できるか考える
3.検討したアイデアを試す
という3ステップが必要になります。生成AIに質問することで、1と2にかかる時間を大幅に短縮できたのは確かです。さらに言えば、おそらく自分で2を考えるよりも、3の成功率はずっと高くなるでしょう。間違いなく便利です。
このように、作業を効率的に進めることはできますが、こうした使い方を続けていると、いずれ“考える力”や“覚える力”が衰えてしまうのでは──という不安は頭をよぎります。
 
生成AIとの付き合い方、うまくバランスを取りながら、使いこなしていきたいものです。
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AI Deep Dive
このコラムは、NTT-ATのデータサイエンティストが、独自の視点で、AIデータ分析の技術、市場、時事解説等を記事にしたものです。
次回は2025年12月2日にお届けする予定です。「異常予兆検知の最前線」について掲載予定です。
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