KTN結晶による波長可変技術を応用した、小口径推進用の光掃引方式位置計測技術を新開発
2017年02月15日

KTN結晶による波長可変技術を応用した、小口径推進用の光掃引方式位置計測技術を新開発

アイレック技建株式会社
NTTアドバンステクノロジ株式会社

アイレック技建株式会社(本社:東京都台東区、代表取締役社長:西野 龍太郎、以下アイレック技建)とエヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社(本社:神奈川県川崎市、代表取締役社長:木村 丈治、以下 NTT-AT)は、下水道をはじめとするライフライン管路の施工技術である小口径管推進工法*1・エースモール工法に使用する新たな位置計測システム*2(光掃引方式位置計測技術)を開発しました。

本システムは、日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下NTT)が通信用に開発した電気光学結晶KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1-xNbxO3*3の製造技術とその結晶を用いた高速波長可変レーザ*4技術を応用し、アイレック技建とNTT-ATが高速・高精度位置計測システムとして製品化したものです。本システムは、高速波長可変レーザと回折格子*5の組み合わせで、機械的可動部品を用いることなくレーザ光を広角スキャンする新しい方式を用いており、高速・高精度の位置計測が可能です。さらに、ユニットの小型化も実現し従来技術では実現できなかった小口径管(250mm管)への対応が可能となり適用領域を拡大しました。現在までに、非開削工法による下水道工事に試験適用し、位置計測システムとして高い精度を実現していることを確認しています。

本システムは、NTT-ATが製造し、アイレック技建が保有するエースモール工法に組み込んで推進施工に利用されます。今後は、さらに中大口径の非開削工法にも適用することで、トンネル位置計測システムとして導入を加速します。また、今回開発した高速波長可変レーザによる位置検知方式については、今回の用途に加え、高速・高精度センシングシステムとして構造物の3D計測や高速の移動体イメージングなど幅広い用途への展開を目指します。

なお、本システムは2月16日、17日にNTT武蔵野研究開発センタで開催される「NTT R&Dフォーラム2017」に展示します。

1.製品の概要と背景

小口径管推進工法と現状の位置計測システム

都市部における道路下に管路を構築する場合、交通規制による渋滞の発生や騒音など近隣への影響から、地表を掘削する工法を採用するのは困難です。また、鉄道軌道や河川の下に管路を構築する場合には、そもそも地表を掘削する工法を採用することはできません。このような状況に対応するため、道路を掘り返すことなく管路を構築できる非開削推進工法が用いられています。内径700mm以下の管路を非開削で布設する工法を特に「小口径管推進工法」と呼び、主に下水道設備の構築に使用されています。アイレック技建では、NTTが開発した独自の堀削・圧送排土機構と位置計測システムを搭載したエースモール工法をレンタル提供することで、軟弱地盤から岩盤までの幅広い土質条件で高精度な長距離・曲線推進を実現し、これまでに総推進長800kmを達成しています(内、下水道600km)。

上記のような管路構築において、特に都市部においては、ガス配管、上下水道、電力管路、通信管路など地下に埋設されたライフラインが複雑に張り巡らされており、それらを避けて管路を構築する必要から、掘削開始点から掘削到達点までの掘削経路が直線にならず、屈曲した管路構築が必要になる場合が多くあります。このような状況下で小口径管推進工法を採用し、新たな管路を構築する場合、既に埋設されたライフラインを損傷することなく管路を構築するためには、掘削機の位置を高精度に計測するトンネル位置計測システムが求められます。このような位置計測システムとしては、掘削機に設置されたコイルの磁界を地上から検知する電磁法、ジャイロを用いて掘削機の方位を計測するジャイロ計測、トンネル内に設置したプリズムによりレーザ光を折角し掘削機までの距離と折角から位置計測するレーザ計測(Prism)等が用いられています。

本システムの特徴

本システムは、時間とともに発振波長を周期的に変化させる波長可変レーザと、レーザから出射された波長掃引光を回折格子により波長に対応した角度に変換しレーザスキャンするユニットからなる位置計測システムです。このシステムでは、トンネルから離れた位置に波長可変レーザを設置し、波長掃引光を光ファイバを用いてトンネル内のユニットに供給することが可能です。ユニットからレーザ光を空間的にスキャンし、掘削機の方向(角度)を計測します。さらに、波長掃引光は光変調器により光パルスとして計測対象に照射し反射光の戻る時間を計測することで距離計測を行っています。このように、計測対象の角度と距離を計測し位置を決定します。特に、波長可変レーザから供給されたレーザ光は、固体素子である光の回折格子によって角度に変換され光スキャンされるため、モータ等の可動部品が不要であり、振動等が発生する屋外環境でも安定な計測が可能で、高い信頼性が実現できます。さらに、波長可変レーザは2kHzの速度で波長掃引を繰り返しているため、短時間で高速のスキャンが可能であり、計測時間の短縮や繰り返し計測による精度向上が実現できます。

以下、屈曲しているトンネルにおける位置計測について説明します。このシステムは、通常、掘削開始点(立て坑内に設置される起点)から見た、掘削機の位置を2次元上の座標(X,Y)(X:離れ値、工事計画線もしくは、工事基線からの水平方向距離、Y:距離、掘削機の基線上への投影距離)として計測します。

角度計測方法と距離計測方法の図


地上に置かれた制御部から出射される波長掃引光は、光ファイバによって各ユニットに送られます。それぞれのユニットは排土管上に配置され、制御部から掘削機直後に配置されたユニットまで、1本の光ファイバで接続されます。各ユニットは、制御部側から順番に波長掃引光を出射して、一つ先のユニット位置を計測します。これを繰り返すことによって、掘削機の現在位置を決定します。

従来機器でも掘削経路が1本の直線で構成される場合、掘削開始点から出射された可視レーザ光が、掘削機後部に取り付けてあるレーザターゲット(撮像素子)中心部に常に照射されるように掘削機を制御することで管路を計画通りに掘削することが可能です。しかし、屈曲部を持つ掘削経路もしくは、直線部と屈曲部が組み合わされた掘削経路で構成される場合、掘削開始点から出射された可視レーザ光が、掘削機後部に取り付けてあるレーザターゲットへ物理的に到達不能、即ち、掘削開始点から見通せない位置となる以降は、掘削機の位置が計測不可能となります。本システムは、掘削機が掘削開始点から見通せない位置になっても、ユニットを適切に配置して、各ユニットの計測位置情報を組み合わせることで掘削機の位置を計測できるシステムです。

計測精度、計測時間の要求事項から最適化された繰り返し周波数(2kHz)を採用し、発振波長の繰り返し再現性が高い波長掃引光源と波長掃引光を精密に角度変換し、空間に出射するユニット(回折格子を用いたユニット)を組み合わせることで、計測角度精度±0.012°以内を実現しています。この値は、離れ値へ換算すると25m先で±0.5㎝以内の位置精度となります。また、ユニット間の計測距離精度は、25m先で±1㎝以内を実現しています。通常、ユニットは複数台使用されますが、トンネル内にユニットがN個配置された場合の期待される計測精度は、離れ値で±0.5㎝×√(N)、距離で±1㎝×√(N)となります。
例として、本システムの最大ユニット接続数時(N=15)の計測精度は、離れ値で±1.9㎝、距離で±3.9㎝となります。
 

非開削工法エースモール用トンネル位置計測システム概要

仕 様
計測方式 波長掃引光の各ユニットへの順次切り替え計測
角度計測:光掃引法 距離計測:Time of Flight(TOF)法
システム構成 制御部1式(可変波長光源1台、周辺機器1式、電源類1式)
ユニット1式(基準ユニット1台、中間ユニット14台、先導体ユニット1台)
計測制御、計測結果表示は制御部PCにて表示
計測時間 ユニット 1台あたり 15秒、1システム(15台接続時) 3分45秒
※計測状況等条件によって変わります


ユニットの仕様

項目 仕 様
離れ値計測 計測範囲 ±5°以内(計測範囲は、計測距離に制約されます)
計測精度 25m先で±0.5㎝以内(角度精度0.012°)
距離計測 計測範囲
子機相対角度0°の場合、25m以下、子機相対角度5°の場合、8m以下
計測精度 ±1㎝以内
ヨーイング(姿勢)計測 計測範囲 ±5°以内
計測精度 ±0.012°以内(25m先で±0.5㎝以内)
ローリング(姿勢)計測 計測範囲 ±10°以内
計測精度 ±0.1°以内
防水機能 JIS保護等級7相当

今後は、工事件数を増やし、計測システムとしての信頼性を高めることで、多くの工事で採用されるよう改良等続けていきます。また、動作の高速化、制御部の小型化など高性能化を図り、幅広い分野への応用を進めていきます。

技術のポイント

  1. 安定的な動作 本開発品は、発振波長の繰り返し再現性の高いKTN光スキャナーを利用した波長掃引光源を制御部に搭載し、ユニットはレンズ等の光学部品と電気制御基板などで構成されており、可動部のない構成となっています。このため、振動等に強く、安定した動作が実現できます。
  2. 高い計測結果の再現性と短い計測時間 波長掃引光源の繰り返し周波数を2kHzとすることで1秒間に2000回の計測を可能としています。計測結果を積算することで計測結果の再現性を向上させることと1秒間に2000回計測することで計測結果の再現性を保ちつつ、計測時間の短縮も図っています。
  3. 拡張性のあるシステム ユニットは、1システム当たり最大15台接続が可能です。接続台数は、掘削する距離や屈曲部の曲率などにより、15台以下の範囲で自由に選択できます。また、掘削が進むにつれて、逐次、ユニットを追加していくことができるので、掘削距離に応じた最短の時間での計測が可能です。
  4. 中心波長1.3μm光源の中心波長は、水の吸収の少ない1.3μm帯を採用しています。地下は、湿度が高くなりがちですが、吸収を低く抑える波長帯を選択しており、ユニット間の光吸収を最小にしています。

2.今後の展開

本システムは、NTT-ATが製造しアイレック技建がエースモールと組み合わせてレンタルおよび施工による事業展開を実施します。今後、従来の計測システムに加えて本システムを導入し、エースモール推進工事への適用を目指します。さらに、両社の連携により、中大口径推進工事や海外事業への展開を目指していきます。また、NTT-ATは、本システムの基礎技術である波長可変レーザと回折格子による高速・高精度光スキャン技術の他用途の展開を図ります。具体的には、レーザスキャンによる建造物や移動体の高速・高精度センシングあるいはイメージング、環境のリモートセンシング等、幅広い用途への展開を目指した市場開拓、製品開発にも取り組みます。

【お問い合わせ先】

報道関係の方

アイレック技建株式会社

非開削推進事業本部 営業部 森
Tel : 03-3845-2829

エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社

経営企画部 コーポレート・コミュニケーション部門 加藤
Tel : 044-280-8823

一般の方

アイレック技建株式会社

非開削推進事業本部 営業部 森
Tel : 03-3845-2829

エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社

先端プロダクツ事業本部 アドバンスマテリアルビジネスユニット 藤浦・小平
Tel:046-250-3771

 


フォームからのお問い合わせ
NTTアドバンステクノロジ株式会社
経営企画部
コーポレート・コミュニケーション部門

 


*1 小口径管推進工法
地表を開削せずに地下に管路を布設する方法の一つで、内径700 mm以下の管路を非開削で布設する工法を特に小口径管推進工法という。一般的に掘削機により、地下にトンネル状の構造物をつくると同時に、トンネルの壁となる管(土管)を布設していく工法。掘削機は前方の土砂を掘削すると同時に、掘削の開始点に設置される元押し装置が管と掘削機を押し出す(推進力を与える)ことで前進する。掘り進んだ分の管を開始点に追加していくことで管路を延伸し、掘削終了点に掘削機が到達すれば、管路は完成となる。
 
*2 位置計測システム
地中にある掘削機の位置を計測するシステム。掘削機に搭載されたコイルから磁界を発生させ、地上に設置した磁界検出装置で位置を検知する方式、掘削開始点から出射されたレーザ光を管路に設置したウエッジプリズムにより屈折させ、掘削機に搭載されたレーザターゲットにレーザ光が到達するように折角を調整後、ウエッジプリズム間の距離と折角により掘削機の位置を検知する方式、掘削開始点と管路に設置した各ユニットから順次レーザ光を掃引し、一つ先に設置してあるユニットの方向と距離を計測。各ユニットの位置を順次特定していくとこで掘削機の位置を検知する方式(本報道発表の方式)などがある。
 
*3 電気光学結晶KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム、KTa1-xNbxO3
カリウム(K),タンタル(Ta),ニオブ(Nb)からできた酸化物。Kerr効果による巨大な電気光学効果を有しており,光偏向器や可変焦点レンズ,光干渉断層計用波長掃引光源等に利用されている。
 
*4 波長可変レーザ
発振波長を任意に変化させることのできるレーザ。一般的には,半導体光増幅器を光増幅媒体とし、共振器内に回折格子等の波長選択素子と,ガルバノスキャナ,ポリゴンミラー,MEMS等の光偏向器の組み合わせによる波長掃引素子を実装した構成となっている。波長選択素子には、MEMSや可動ミラーを用いた機械式や,EO効果を有するKTN結晶などの光偏向機能を用いた非機械式のものがある。

*5 回折格子
光の回折を用いて干渉縞を作り出す光学素子のうち、格子状の構造物が光の回折を引き起こすもとになっている光学素子の総称。格子状の構造物で光が反射して干渉縞を作り出す反射型回折格子、格子状の構造物を光が透過して干渉縞を作り出す透過型回折格子に大きく分けられる。回折格子はグレーティングとも呼ばれる。


※ 文中記載の社名、商品名は各社の商標または登録商標です。

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